長崎市五島町にある学習塾・幼児教室 羅針塾 https://rashinjyuku.com/wp では、日々世界中の様々なニュースの中から、塾生にとって有益な情報を示していきたいと考えています。
新たな台風の接近に一憂している中、素晴らしいニュースが飛び込んできました。
[ストックホルム 1日 ロイター] – スウェーデンのカロリンスカ研究所は1日、今年のノーベル医学・生理学賞を、免疫システムを用いたがん療法で画期的手法を開発した米テキサス大のジェームズ・アリソン教授と京都大学の本庶佑・特別教授に授与すると発表した。
これについて、わかりやすい解説をされている記事(JB PRESS 伊東乾氏)がありましたので引用致します。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54279
(前略)
ノーベル財団のHPは今年の授賞を
“for their discovery of cancer therapy by inhibition of negative immune regulation.”
「彼らの、免疫抑制機構を停止することによる癌治療の発見」に対して授与したとしています。
(中略)
「彼ら」が発見したのは
「ガン細胞が、私たち人間が誰しも持っている免疫という本質的なシステムのウィークポイントを利用して、一掃されないよう忖度させていた(negative immune regulation.)免疫の働きを停止(inhibition)させて、私たち自身の免疫の力によってガンをやっつけるという、本質的に革新的なガン治療法を見出すに至る、基礎的な免疫の分子生物学メカニズムを明らかにしたこと」 が評価されているわけです。
(中略)
この仕事の背景には2つの選考業績があります。
1つは「モノクロ―ナル抗体の発見」(1975 G.ケーラー C.ミルステイン → N.イェルネと共に1984年ノーベル医学生理学賞受賞)
いま1つは「抗体(免疫グロブリン)」が自在に変形する特異な遺伝子機構の解明(利根川進 1976 → 1987年ノーベル医学生理学賞受賞)
これら2つの、免疫学における最先端の業績を横目に、日本と米国を往復しながら免疫学の先端で業績を上げていた東京大学医学部の本庶助手は考えます。
(・・・どうして、抗体は自由自在に形を変えるのだろう・・・)
世の中には、無数と言っていいほど、多種多様な黴菌やウイルスが存在します。しばしばそれらは進化して、より質が悪い形をとって私たちに襲いかかってくる。
ところが不思議なことに、私たち生物(脊椎動物)は、そうした未知の敵に対して、的確に攻撃を仕かける免疫のシステムを持っており、抗体が様々な形に変って、ピンポイントで敵をやっつけていく。
その大きな謎に、同世代(生まれ年で2学年違い)で、同じ京大で理学部出身の利根川さんが決定的な業績を上げ、答えを出したのが1976年でした。
37歳の利根川さんが過去7年間無駄なペーパーゼロで、この仕事だけに取り組み、場外ホームランを打ち上げることに成功するのを34歳の本庶助手はまぶしく見たに違いありません。
早くからこの分野の基礎に業績を上げていた本庶青年は38歳で阪大医学部教授、43歳で京大医学部教授と、基礎研究の王道を進み、ガン治療の特効薬探しなどをしていたわけではありませんでした。
1992年、本庶研究室の大学院生石田靖雅氏は、研究していた免疫細胞の一つ T細胞が(古くなるなどして自ら命を絶つ)「自殺」(アポトーシス)を行う際に現れる特異的な「鍵穴」(受容体分子)を見つけます
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC556898/pdf/emboj00096-0084.pdf)
ちなみにこのとき本庶さんは50歳です。
この鍵穴が何であるのかは、しばらくのあいだ分かりませんでした。しかし、地味で地道な基礎研究の結果、この鍵穴は免疫活動を抑制する働きのある鍵穴であることが分かりました(1997-2000)。
(http://jem.rupress.org/content/192/7/1027)
本庶先生が55から57歳にかけてのお仕事になります。さて、これは面白いものを見つけました。
つまり、ここに「鍵」を指し込めば、オソロシイ免疫細胞の攻撃を免れることができるわけです。この鍵穴が報道されている「Pd-1」と呼ばれるもので、一部のガンはこれを活用していることが分かりました。
ガンの治療が難しいのは、それが「私たち自身」の細胞であることによります。免疫は異物を除去していきますが、私たち自身の細胞は、自己自身であるため免疫機構の攻撃を受けません。
ガン細胞はそれを知っていて、鍵穴PD-1に合致する鍵PD-L1を表面に帯びているのです。
(中略)
だとすれば、仮にこのPD-1に対応する抗体(抗PD-1抗体)を的確に設計して、ガン細胞より先に免疫細胞に結合してやれば、細胞は本来の免疫システムを発揮して、ガンをたちどころに退治してしまうことができるはすです。
実際、そのような抗体を、先ほど記した「モノクローナル抗体」としてデザインすることで、本庶グループはガン治療を一変させることに成功します(https://academic.oup.com/intimm/article/17/2/133/843513)。
(中略)
本庶先生のお仕事は20代にスタートし、30代同世代チャンピオンのノーベル賞も横目に40代、50代と地道に、素朴に「なぜ?」を考え、基礎メカニズムの解明に集中してきた研究者が60歳を過ぎて、実際にそれを治療に応用してみよう、と一歩を踏み出し、結果が結実したものと言えます。
2004年に基礎医学の成果として可能性が示された、自分自身の免疫力でガンを根治するモノクローナル抗体=「忖度から鍵穴を守る水戸黄門の印籠」は「免疫チェックポイント阻害療法」として臨床応用が検討開始。
2010年「ニボルマブ(Nivolumab)」と呼ばれる「IgG4 PD1」抗体の臨床試験開始が公表され、2014年、世界で初めて日本で製造販売が承認、同年9月 小野薬品工業から商品名「オプジーボ」(https://www.ono-oncology.jp/contents/patient/opdivo_about/03.html)として発売され、臨床で治療実績を上げ始めます。
本庶先生はすでに72歳、前年には文化勲章も受けた碩学が、70代にして基礎研究を臨床応用に結びつけ、実際に全世界の患者さんの救命に利用されるようになりました。 それから今回のノーベル医学賞まで4年です。
・・・本庶佑先生(京都大学特別教授)が倦まず弛まず、「何故?」と考え続け、並外れた精進を続けてこられたからこそのノーベル賞受賞です。正に、「世の為、人の為」と、未来をかける若人にとっても大きな目標となります。